<パラリンピック>被災地背負い跳ぶ 走り幅跳びの佐藤選手
毎日新聞 8月26日(日)19時55分配信
昨年3月の東日本大震災は、つらい闘病生活の記憶と重なった。パラリンピック陸上女子走り幅跳びに出場する佐藤真海(まみ)選手(30)は被災地・宮城県気仙沼市出身。チアリーディングに打ち込んでいた大学時代に病気で右脚の膝下を失った。これまで自分を励ましてくれた故郷は復興の途にある。ロンドンでは「メダルの夢」をかなえるつもりだ。それが被災者の希望になると信じている。
佐藤選手の実家は、海岸から約200メートルにあり、津波で1階部分は柱だけになった。東京の会社に勤めており、震災直後は家族と連絡が途絶えた。テレビに映る避難所の様子を目で追うことしかできず、焦りが募った。
震災から6日目、市役所に設けられた臨時電話を通じて母から連絡があり、家族の無事が確認できた。だが、故郷の被災状況を聞けば聞くほど、胸は痛くなった。「悲しむ子供たちを少しでも勇気づけたい」。そんな思いで講演に訪れたことがある全国12の小中学校から応援のメッセージを募り、昨年5月、支援物資と共に自ら故郷に届けた。小中学生に自らの体験も語った。
早稲田大2年の冬、右足首に違和感を感じた。診断は骨肉腫で「この先、足が動かなくなる」と告げられた。「本当に私に起きている出来事なの?」。目の前が真っ暗になり、涙があふれた。
翌年春に右脚膝下を切断。退院後は義足を装着し、抗がん剤の副作用にも苦しんだ。「一日一日を生きるのがやっと」。でも、そんな中、「もう一度目標を設定し、何かに取り組もう」と考え、訪れた東京都内の障害者スポーツセンターで義足の選手が集う陸上クラブを紹介された。
中学時代に陸上をしていたが、短距離走は得意分野ではなかった。そんな理由で選んだ「走り幅跳び」。だが、義足に慣れてからは記録がどんどん伸びた。初出場した04年アテネ大会は9位。練習量を増やし、08年北京大会前には当時の日本記録をマークしたが、腰を痛め、本番は6位に終わった。
世界の舞台で表彰台に上がるため、北京大会後、大きなチャレンジに踏み切った。利き足とは逆になるが、義足をつけた右足で踏み切ってジャンプする形に変えた。義足で踏み切るのが世界的潮流となっていたからだ。今年3月の代表選考会では自己ベストの4メートル52センチを跳び、ロンドン出場を決めた。
「世界で活躍する自分の姿を、地元の子供たちに見せたい」。被災地への思いを胸に「三度目の正直」でメダル獲得に挑む。【和田浩幸】
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