不妊の新型着床前診断、波紋呼ぶ...命の選別か先端治療か
晩婚化や出産年齢の高齢化に伴って不妊治療を受ける夫婦が増え続け、現在、6~8組に1組の夫婦が不妊に悩んでいるとされる。母体が高齢になるほど卵子の老化や染色体異常の割合が高くなり妊娠は困難に。そんな中、神戸市内の不妊治療専門病院が、受精卵のすべての染色体を調べ、異常のない受精卵を選んで子宮に戻し体外受精の妊娠率を上げていたことが明らかになり、波紋を呼んでいる。何が問題なのだろうか。(加納裕子)
今年7月、「大谷レディスクリニック」(神戸市中央区)が、受精卵を子宮に戻す前に、すべての染色体の異常を調べる新たな受精卵診断(新型着床前診断)を行っていたことが明らかになった。旧型の着床前診断では、一部の染色体しか確認できなかった。
同クリニックでは平成23年2月から今年5月までに、129組の夫婦に新型着床前診断を行った。染色体に異常がなかった受精卵を70人の子宮に戻して50人が妊娠(71・4%)し、流産は3人(6・0%)。一般的な体外受精による39歳の妊娠率(24・7%)、流産率(31・5%)を大きく改善する結果だったという。
着床前診断について、日本産科婦人科学会は重い遺伝病以外は認めておらず、個別の申請を学会員に求めているが、大谷徹郎医師は申請していなかった。学会は今回の治療について「妊娠率や生児を得られる率の向上に寄与しない」とし容認しないとする声明を出した。
ではなぜ、このような治療が必要なのか。
精子が卵子に出合うために通る卵管が詰まっている場合や精子に卵管をくぐり抜ける力がないなどの場合は、卵子と精子を採取して体外で受精させた上で子宮に戻す「体外受精」に踏み切る。不妊の原因が特に見つからない場合にも試みることが多い。
それでも確実に出産できるとはかぎらない。保険のきかない体外受精を繰り返して1千万円以上を費やす夫婦や、妊娠しても流産を繰り返し心身ともに傷つく女性が後を絶たない。
着床しなかったり、流産を繰り返したりする主な原因は卵子の老化や受精卵の染色体異常とされる。新型着床前診断を行うことで、染色体異常がなく妊娠する可能性の極めて高い受精卵を戻すことができ、患者の肉体的、精神的負担を減らせる、というのが大谷医師の主張だ。
ただ、染色体異常の受精卵を排除し選別することは、ダウン症など染色体異常による障害者の排除につながるとの懸念もある。
脳性マヒを持つ人による「大阪青い芝の会」(大阪市東住吉区)の川嶋雅恵会長(59)は「着床前診断は優生思想に基づく命の選別であり、医師の理論で安易にすべきではない」と話す。
一方、新型着床前診断を受けた患者の一人は「6度目の妊娠で初めて産声を聞くことができ、涙が止まらなかった」と語る。大谷医師は「染色体異常がある受精卵を無差別に排除するのではなく、両親の希望によってはダウン症として生まれる可能性のある受精卵を子宮に戻すという選択肢もある」と説明している。
命の選別とみるか、命を生み出すための治療とみるか-。高度生殖医療には、社会の許容範囲は今どこにあるのか、幅広い議論を続けることが求められている。
染色体 染色体は細胞の核の中にある棍棒(こんぼう)のような形をした物質で、中に入っている遺伝子に生物の情報がすべて書き込まれている。人間の染色体は通常父親由来のものと母親由来のものが1本ずつ、2本で一対となっており、全部で23対46本。染色体異常のある受精卵では、一部の染色体が3本になるなどの異常が発生する。
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